生命と進化
現在、「生命と進化」の続編となる「ヒトの進化」の執筆を始めております。完成にはまだ数年かかりそうですが、でき次第同じように公表したいと考えて居りますのでどうぞご期待下さい。(2006年1月)
これは2001年1月より11月までメルマに連載したものに
少し手を加え、図表や脚注を追加したものです。
大幅に書き換えた所も有りますので、
連載を読んでいただいた方も参考にして下さい。
「生命と進化」自費出版しました。
B5版、520P、定価3,400円(税別)です。(2002年出版)
価格が高くなって申し訳ありませんが、これでも
出版社には無理をお願いして安くしてもらっています。
宜しければお買い求め下さい。注文は「楽天市場」でお願いします。
目次
プロローグ
(1/2)(2/2)
◆内容
生物とはいかなる存在なのでしょうか。 ダーウィンの自然淘汰説への反論も交え、 生命40億年の進化の跡をたどりながら、こ の根源的問題に迫って行きます。
読者間の情報交換の便宜にと掲示板を公開してきましたが、充分にその機能を果たしているとは言えない現状から、当掲示板は閉鎖させていただく事に致しました。あしからずご了承下さい。
メールについて
以前にはメールアドレスも公開していましたが、その結果、迷惑メールが1日に数十通も届く様になり、現在では公開を取り止めて居ります。この点もあしからずご了承下さい。
専門用語について
本書は高校生が理解できる内容である事を目指して書いています。したがって用語も重要なものは本文中で解説する様に努めています。ただ説明が前後する場合も有りますので、少しぐらい分らない用語があってもそのまま読み進めてもらえば良いと思います。それでも、慣れない方には戸惑う事も有るかも知れません。そういう時には、以下の2冊を参考にして頂ければと考えます。
1)「生物の小事典」石浦章一 他/岩波ジュニア新書
2)「フォトサイエンス生物図録」鈴木孝仁/数研出版 ¥848
どちらも求めやすい価格ですし、2)の本は事典では有りませんがイラストが満載ですので、具体的なイメージをつかむのに良いと思います。
◆ 著者 松野善雄
◆ Copyright(C) 2001 by Yosio Matsuno
はじめまして
生物は生存競争と自然淘汰と通じて進化して来たとされています。そして今日では、このダーウィンの原理が1つ1つの遺伝子を通して生物の行動や社会にまで適用され、ついには生物は遺伝子の操り人形に過ぎないといった極端な考えまで登場しています。そして、この原理が人間の行動や社会にまで適用されようとしているのです。しかし、生物やそれが作り出す生態系そして社会は、それほど単純なものなのでしょうか?ここでは自然淘汰説への反論も交えながら、生命40億年の進化の跡をたどり、生命とは何か、そして我々はいったい如何なる存在なのか、この大問題に少しでも迫って行きたいと考えています。
生命がこの地球上に誕生したのは、約40億年前の事と考えられている。約46億年前、微惑星の衝突によって地球が誕生してまだ間のない頃、その激動の余韻のさめやらぬ頃のことである。
以後、生命は進化を続け、今日のように多様な生物を生み出して来た。現在、地球上には数千万種にも及ぶ多種類の生物が暮らしていると考えられている。しかもそのほとんどが、いまだ人類にとって未知の生物なのである。バクテリアの仲間のように、何十億年もほとんど変化せずに生存してきた生物も存在するが、我々が直接眼で見ることのできる多細胞生物は、何億年にもわたる進化によって今の姿になってきた。つまり、今日の生物界は進化によって生み出されて来たのであり、生命と進化は不可分のもの、あるいは進化とは生命の本性であると言うことも出来るだろう。ダーウィン自身、自分の進化理論を、地球上の生物の多様性を説明するものと考えていたのである。したがって、我々ヒトも含めて生命とは何かを考える時、進化は避けて通れない問題と言う事ができよう。それと同時に生物がどのように進化して来たのか、またそのメカニズムは、あるいはそもそも進化現象とは何なのかといった問題を考える事は、この問いにたいする最大のヒントを提供してくれるはずである。しかし実は、進化自体が生命自身と同様に、人類にとっていまだに納得にいく答えの見つからない大問題なのである。確かに古生物学や分子生物学の発展は、以前には思いもよらなかったような多くの知見をもたらしてくれた。しかし、こうした様々な事実を統合する進化理論としては、今日なお我々はダーウィン理論しか持ち合わせていないのである。
ダーウィン派の進化論は、20世紀に入り集団遺伝学と結び付き、数学的に精緻なものに作り替えられたが、その基本的メカニズムはダーウィンが100年以上も前に説いた自然淘汰なのである。今日ではダーウィン派に対する批判も多いが、今だにそれに取って代わるだけの理論は現れていない。しかし、生物学のバックボーンとも言うべき進化理論が、今だに19世紀の考え方によって支配されているという事実は、極めて異常な事と言わなければならない。この意味は、物理学の分野と比較してみると良くわかる。よく知られているように、物理学は20世紀の初めに、相対性理論と量子論の登場によって根本的な変革を経験している。その結果、時間・空間、そして重力や物質といった、それまでの基本的な概念が根底から覆されてしまったのである。ところが「生物学者たちは、アインシュタインやハイゼンベルグが物理学者に強いたような、習慣的な思考からのとんでもない飛躍をいまだに経験していない」。このことは、生物学をいつまでも、19世紀的な古臭い世界観に縛り付ける事になってしまった。
今日のダーウィン派は、生物の個々の形質を決定しているのは遺伝子であり、この特定の形質を支配する遺伝子が自然淘汰により繁殖集団内に広まったり、あるいは逆に集団から失われる事によって進化が起こると考えている。つまり、遺伝や進化の問題を遺伝子という基本粒子に還元して、いわば豆袋(ビーン・バッグ)から豆を出し入れするように、個々の遺伝子を入れ替えるという機械的なメカニズムで生物の形質が変化し、進化するというのである。これは自然を理解するのに、その最も基本的な構成要素である原子に還元し、これらの基本粒子間のニュートン力学的作用を明らかにする事によって、すべてを説明できるとした力学的機械論に通じるものである。ダーウィン派の進化論は、複雑な現象をその単純な基本構成要素に還元して分析し、次にこの基本要素の作用を機械的に加算することにより理解できるとする還元主義と、それによって作り出された機械論的世界観をその基礎に持っているのである。「現代の生物学は、いまだにニュートン力学というパラダイムの枠内で動いている」と言うことも出来よう。「今日、たいがいの生物学者は、生物学は物理学の延長であると考えている」。ところが生物学者が手本としてきた物理学では、相対性理論と量子論という革命によって、とうの昔に機械論から決別してしまっている。20世紀の物理学は、大きさのレベルを下げて、より小さな素粒子へと還元を進めていくと、粒子は逆にますます機械的には振舞わなくなる事を明らかにして来た。量子力学の支配する世界では、粒子の存在や運動は機械論が想定するような確固としたものではなく、確率であらわす事が出来るにすぎないのである。このように、現代物理学では機械論・決定論からますます遠ざかっているにもかかわらず、生物学では今だに機械論的プログラムが追求され続けているのである。(1)
生物学における、このような機械論的な理論の支配は、進化理論の発展を阻害して来たというだけではない。最近では、生存競争と自然淘汰というこの古色蒼然たる理論が生態学の分野にまで持ち込まれ、動物の行動の進化を説明するものとして持てはやされている。行動生態学や社会生物学である。しかし、生物の行動や生態の解釈にこうした機械論的モデルを持ち込むことは、生命に対する理解を極めていびつなものにしてしまう事になった。これらの理論では、自分の遺伝子をより多く残す事を最終目的とした損得勘定だけで、生物のすべての行動を説明しようとするのである。このような機械論的な生物理解の行き着く先は、生物自身が一つの機械にすぎないという生物機械論である。実際、分子生物学者の間では、こうした考え方が広まっている。このような生物機械論は、17世紀にデカルトが動物は複雑な機械であると主張して以来、形をかえつつも繰り返し現れ、その時代の技術水準に応じて様々な機械論モデルが考えだされてきた(1-1)。デカルトの時代には、動物は複雑なぜんまい仕掛けの機械にすぎなかったが、蒸気機関や熱力学が発達した産業革命の時代には、生物は熱機関と見なされるようになった。カロリー計算などは、この時代のなごりである。次に、ミサイルやオートメーションの自動制御機械が発明されると、生物はサイバネティック機械とされた。 そして最も新しいモデルが、分子生物学の発展を背景にでてきた生物分子機械論なのである。
こうした生物の機械論的な理解の基礎にあり、また理論的に利用されて来たのが、ダーウィンの自然淘汰説である。本書では、ダーウィン派の進化論への批判も織り交ぜながら、生命40億年の進化の跡を追い、生命とは何かという大問題に一歩でも迫って行きたいと考えている。まず第1章では、自然淘汰説では説明出来ない様々な問題を取り上げる。第2章では、現実に生物の進化はどのように起こったのか、大量絶滅との関連を中心に見ていく。第3章は、進化が生態系の変動と深く関係している事を。第4章では、地球の進化との関連を、生命誕生から多細胞生物の出現までの生命の初期進化を見ながら考えよう。第5章は、今日の分子生物学のめざましい発展によって明らかになって来た、進化の分子メカニズムに焦点をあてる。第6章では、それまでの議論を基に、生命とは何かという問題に迫りたい。そして最後の第7章では、今日、注目を集めている複雑系との関連を述べたいと考えている。